ハラスメントへの対応について

ハラスメント
写真提供:宮城県観光戦略課

セクシュアルハラスメントへの対応において、被害を受けた方のご意向をどのように取り扱うのか。
その限界事例のような報道に接しました。

これは、ある自治体で、異性と一緒に食事に行った 40 代の係長が同僚職員にセクシュアル
ハラスメントを行った、というもの。
被害を受けた職員は、職場の係長に「報告」しますが、同時に「誰にも言わないで欲しい」
との意思も表明していました。
報告を受けた係長は、その意思を尊重し、ハラスメントを行った職員との接点を極力減らす
などの対応を取る判断をして、所属長への報告を行いませんでした。
しかし、結果的に、ハラスメントを受けた職員は体調不良に陥り、病気休職を申請するに至ります。
係長は、この時点で所属長への報告をしましたが、そのことが「セクシャル・ハラスメントの被害申告に対する不適切な対応」とされ、戒告処分を受けるに至りました。
皆さんは、どうお感じになりましたか?

私は、どうにも腑に落ちないものを感じました。
ハラスメントの被害を受けた方から相談を受け、その方が、事を公にしないで欲しい、との意思表示をしているのです。
本人の意思に反して、組織としての情報共有を行う義務や職務があるのでしょうか?

元・人事院公務員研修所主任教授がお書きになった参考図書を開いてみました。
そこには、
“原則として、相談員が人事当局へ報告するに際しては、相談者の同意が必要です”
とハッキリ書いてあります。
私の職務経験に照らしても、この考え方の方がしっくりきます。

この事案の記者発表資料には、被害を受けた職員が係長に「報告」した、とサラリと書いてありますが、本当に「報告」に該当するような行為だったのでしょうか?
ハラスメントの相談は2人の相談員で対応することが、おそらくどの自治体でも原則とされているはずです。
相談を受ける職員が望まない場合は、その限りではありませんが、そのような手続きを経ての「報告」だったのか。
ここが重要なポイントだと思います。

「報告」を受けた係長を懲戒処分するためには、少なくとも以下の事実認定が必要です。
・ ハラスメントの相談である旨の意思を相談者(被害者)が示していること
・ 相談者の同意を得ずに組織として情報共有すべき特段の事情が存在したこと
・ 相談者の「報告」が業務上の報告あるいはハラスメントの相談に該当する実体を伴っていること

正直申しまして、この自治体の対応は「大丈夫かいな?」と激しく心配になるものです。
相談を受けた係長への懲戒処分に加え、被害を受けた職員へも何と懲戒処分を下しています。
病気休職からの復職後、5日間の私事欠勤などがあった、というのが処分理由です。
これはさすがに変でしょう。
職場として、きちんとしたフォローが出来なかったからこその無断欠勤なのではないのでしょうか。
給与カットは当然ですが、口頭による厳重注意くらいが関の山、と私には映ります。

ところで、この事案では、どのようなハラスメント行為があったのか、詳細に報じられています。
「〇〇を3回」などといった調子です。
理由は、記者発表資料にそのことが赤裸々に綴られているから。
「二次被害」という言葉を知っているのだろうか、と激しく疑問を感じました。
あるいは、色々と裏の事情があるのかもしれませんが、少なくとも「〇〇を3回」と天下泰平に向けて公表する必要性は全く無いと思いますー

*参考文献
高嶋直人「公務員のためのハラスメント“ゼロ”の教科書」(2020)株式会社ぎょうせい

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