市長の離れ業

議会答弁

議会での答弁の誤り。

大抵は「先ほど〇〇と申しあげましたが、正しくは××でした。お詫びして訂正いたします。」といった具合ですが…

現役時代に物凄い答弁を耳にしたことがあります。

 

議場の「ひな壇」には、市長、副市長とともに説明員(理事者)がずらりと並びます。

一般質問だと、議員が特定のテーマだけを取り上げる場合もあり、その場合、市長と所管の局長以外は「蚊帳の外」という状態に…

しかし、そこで本当に蚊帳の外の人間となってはいけません。

重要なミッションがあるのです。

 

それは、「答弁原稿と照らし合わせながら、実際の答弁をチェックする」という役割。

心底重要なミッションなのですが、「知らぬ野半兵衛」を決め込む人が実に多かった。今でも多い、と感じます。

実際、「令和」と原稿にあったものを「平成」と盛大に読み間違えたものの、誰も気づくことが無かった、という経験をしたことがあります。

議会HPの録画でチェックしたのですが、どなたにも反応がありませんでした。

 

では、本来はどうあるべきなのでしょうか?

財政課管理係長時代に「お手本」を見せていただいたことがあります。

当時の仙台市役所では、二役や局区長らの他に庶務課長と財政課長が議場に入室していました。

答弁をチェックしたり、急な伝達事項があった場合の要員です。

12月議会は、新年度予算査定の正念場と重なります。

議会と調整の上、管理係長が財政課長の代わりに入室することになりました。

なので、私は、有難いことに、係長時代に「議場デビュー」させていただきました。

(今はもうやっていないと思います。)

ひな壇の端っこにちょこんと座り、答弁原稿を眺めながら、局区長の答弁を確認していきます。

天井からのライトをまばゆく感じ、大変緊張したことを覚えています。

 

ある局長が数字を読み間違えたことに気が付きました。

たしか桁が違っていたと思います。

実は、そうした場合にどうすればいいのか、きちんと確認していなかったため、大変焦りました。

私、いつも、どこか一つ抜けているのです。

上司である財政局長のところに、サササと近づき、状況を小声でご説明します。

すると…

 

この方は、答弁原稿を裏返し、さらさらと修正答弁のための読み原稿を書き上げ、スッと当該局長の机上に差し出しました。

読み誤りをした局長は、その原稿を読み上げ、事無きを得たのであります。

実に鮮やかな手際でした。

 

この強烈な体験から十数年後。

私は環境局長としてひな壇に座っておりました。

仙台フィルに関する市長答弁で、当時の奥山市長は、「東北で唯一のプロオーケストラ」という言い回しをその場で加えました。

しかし、これは事実に反します。

山形交響楽団というプロオケがあるのです。

 

担当局長に「山響があります」と教えましたが、この方も当惑するばかり。

係長時代の経験を思い返し、答弁原稿の裏面にサラサラと…

とはまいりませんでした。

彼のお方とは戦闘力がまるで違います。

完パケの答弁原稿を作るのは無理だったので、

 

「東北唯一のプロオケ ×」

「山形交響楽団がある」

 

とだけ記して、リレー方式で副市長に届けてもらいました。

 

副市長はメモを一瞥し、市長の答弁が終わるタイミングで、そのメモを市長の机上に差し出します。

この間、市長は立ったまま。

メモを読み取るや、すかさず修正の答弁を始めました。

 

「先ほどのご答弁で、仙台フィルについて「東北で唯一のプロオーケストラ」と申し上げましたが、山形交響楽団がございました。」

「そうですねぇ…「東北随一の」と訂正させていただきます。」

 

いやいや、これには吃驚しました!

この方の頭の回転の早さには恐れ入るばかりです。

 

残念なことに、上述のくだりは議事録には載っていません。

議事録として「整理」され、当初から「東北随一の」と答弁した形で残っています。

この方の「凄み」が伝わるエピソードであっただけに惜しまれます。

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