忘れん坊将軍

不適切な事務処理

事務処理のミスのニュースで最近見かけるのが、「失念」です。

これは、なかなかに厄介なヤツだと思います。

 

まずは、静岡市の事例。

市庁舎に入居している食堂について、事業者との賃貸借契約が未締結となっていました。

2024年4月から新たな事業者による運営が開始されていましたが、担当職員が契約締結事務を「放置」(記者発表資料ママ)していたもの。

「業務多忙」だったのだそうですが、組織として契約締結業務の存在を失念していた、という事例です。

 

お次は、彦根市で職員が工事や物品購入の代金、補助金など約9億円(約2200件)もの振込手続きを怠った問題。

銀行への振り込みデータ送信を失念していたのだそうです。

 

実は私も、若手と呼ばれていた頃に一度やらかしております。

財政課で市債を担当していた時のことです。

市債の償還(借りたお金をお返しすること)は、実に不定期に連日のように発生します。

これは、借入日がまちまちで、それに応じて償還日もまちまちとなっているため。

電算システムから打ち出されたデータを基に償還金の支出事務を行いますが、これは一身専属の作業。

担当者である私以外には、何時どこにいくら返済するのか分からないのです。

 

たしか有給休暇をいただいた翌日のことだったと思います。

職場に出勤すると、妙な空気を感じました。

鈍感な私が「アレレ?」と感じるのですから、客観的には相当微妙な雰囲気だったのです。

係長から、「何か忘れていることは無いかね?」と尋ねられますが、全く思い当たらず、キョトンとしていました。

 

隣の席の先輩が呆れたように、「お前、昨日の市債の償還を忘れていたゾ!」と口にします。

「アーーーーー!」

やっと思い出しました。

未処理の案件があったのです。

「15時直前に銀行から電話があって、それから大変だったんだゾ!」

「誰も事務処理のやり方が分からないから、急遽前任者に作業してもらったんだゾ!」

出勤直後の微妙な空気感は、「コンニャロ!」というお怒りの気だったのです。

 

それにしても、この時はツキがありました。

銀行からの問い合わせがあったからです。

「本日入金されるはずの償還金がまだ入金されていません」

という内容だったそうですが、もしも本当に返済が実行されていなかったら…

利子を再計算するとかの作業もそうですが、証書で借り入れていたので、証書の作り直しか修正が必用になっていたかも、です。

約定日における元金と利子の金額が延々と記載されている書類なのです。

 

自らの不始末を棚に上げつつ、これら3つの事案に共通するものは何でしょうか?

面倒見ていただいた係長と先輩には申し訳ありませんが、客観的に申せば、

「組織力が働いていない」

このことであります。

後出しじゃんけんで申せば、例えば「今月の償還予定」のような一覧表を作成し、連日の償還事務が遺漏なく進められているか、担当者以外の職員がチェックする、という仕組みがあれば、防ぐことが出来ました。

 

静岡市の事例も、賃貸借契約の決裁が部下から上がって来ない、という状態をチェックする仕組みが必要でした。

担当者が仕事を放置しても、組織としてのチェックがあれば防止出来ました。

 

彦根市の事案は、これまでは担当者一人に任せ切りにしていた、とのことです。

図式としては、私の案件と同じです。

 

近々、内部統制制度に関する講義を差し上げる予定がありますが、リスクチェックシートに「事務処理の失念」が入っているか、お尋ねしてみようと思います。

 

【どうでもE話】

「暴れん坊将軍」は、将軍・徳川吉宗がお忍びで市中を徘徊し、文字通り暴れ回る、という時代劇。

1978年から2002年まで、断続的にシリーズが放映されました。

78年当時の松平健は、まだ「新人」だったのだそうです。

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