神の手の罪

温故知新でまちづくり

「旧石器発掘ねつ造事件」を知っていますか?

平成12年11月。毎日新聞の朝刊がねつ造の現場写真をスクープ。

その後、歴史の教科書の記述まで変更されることとなった一大事件でした。

 

【話の背景】

我が国にはいつから人類がいて、いつから石器を使い始めていたのか?

「大昔(数十万年前だとか)には石器は無かった。」という話がかつては支配的だったそうです。

が、その大昔の地層から石器を発掘した人物が現れ、「数十万年前から我が国には石器があった。前期旧石器時代の遺跡は存在する。」という話が1980年代には定着していました。

 

【神の手】

この人物は、各地の遺跡発掘に関わり、古い時代の地層から次々と旧石器を発掘。その道の第一人者と目され、「神の手」と称されるようになっていきます。

何せ、発見の仕方が素晴らしい。

「この辺が怪しい…」

と掘り出すと、途端に石器が発見されるのです。

「おぉっ!」

ゴルゴ13に仕事を引き受けてもらった時の依頼者のように、一同は声を上げたと言います。

 

【疑問】

毎回毎回、同じ人物が石器を発見していることに毎日新聞が疑問を持ちました。

と言っても本社マターではなく、北海道の支局マター。

限られたスタッフの中から数人の取材チームを編成し、通常業務をこなしながら、特ダネを追う日々が続きました。

取材を続ける中でねつ造は間違いないとの確信に至りますが、証拠がありません。

発掘調査の日程を睨みながら取材チームを現地に派遣し、何とかねつ造の証拠を写真とビデオに収めようとしますが、失敗の連続。

 

【最後のチャンス】

さすがに支局での対応には限界がやってきました。

次回の発掘調査でスクープできなければ、本件の取材は打ち切り、と下達されます。

そうした瀬戸際の状況で生まれたのが、平成12年11月のスクープ。

件の人物が発掘調査の現場を早朝に訪れ、石器を自分で埋めていく様子が、ビデオと連続写真で捉えられたのです。

動かぬ証拠を突きつけられて、本人もねつ造を認め、翌朝の一面報道へと至りました。

てんやわんやの末、旧石器時代の研究は一旦白紙に戻り、現在は、「前期旧石器時代の遺跡として確たるものは存在しない。」こととなっているそうです。

 

【事件の波紋】

実は、仙台市にも、この事件の前までは「前期旧石器時代の遺跡」がありました。

石器を発見したのは、もちろん件の人物。

毎日新聞のスクープの前年。平成11年に発行された「仙台市史 通史編1 原始」には、ねつ造された資料に基づく記述が含まれることに…

平成17年、正しい資料に基づく「改訂版」が出版され、現在はこの2冊がセットで販売されています。

改訂版に寄せられた藤井市長(当時)のコメントには、正しい歴史の姿を市民に提示することができた満足感があふれています。

元教育長ならでは、ですね。

おそらく、自ら筆を執ったのでは…と私は思っています。

*参考文献

毎日新聞旧石器遺跡取材班「発掘捏造」(2003)新潮社

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