私の仕事術に「魚の骨の感覚を大切にする」というものがあります。
魚の小骨が喉に引っかかったような「微かな違和感」を覚えたときは、念のための確認の「ひと手間を惜しまない」というものです。
さて、サンダーバードにおける「魚の骨」とは?
サンダーバードは、トレーシー兄弟が国際救助隊として活躍するお話。
1965年にオリジナル版がイギリスで制作され、これをNHKが放映して大人気を博しました。
2004年には実写版が、2015年にはCGによるリメーク版が制作・公開されているので、多くの皆さんがご存じかと思います。
さて、そのサンダーバードにおける「魚の骨」ですが…
子どもの頃は、オリジナルの吹き替え版を視聴していた訳ですが、オープニングの最後、番組のタイトルが表示される時の英語がよく聞き取れませんでした。
「Thunderbirds」は何となく分かりましたが、その後が…
大人になって聞き返すと、どうやら「Thunderbirds are go!」と言っているらしい…と分かってきます。
これが、私にとっての「魚の骨」でした。
中学校で「現在進行形」というものを教わりました。
「are go」は間違いなのでは??
長年の疑問でしたが、ある時、「ひと手間」をかけてみました。
恥ずかしながら、35年ほど前に米国リバサイド市に一年間滞在させていただきました。
最初の半年は大学に通って、英語を学んでいたのですが、文法の先生の教え方が無茶苦茶分かりやすく、感動すら覚えたことを記憶しています。
その時に「Be動詞は数式の=と同じです」という説明がありました。
「主語 = 述語」
という関係になるので、巷間よく使われる「It’s me.(はい、私です。)という電話での言い回しは文法的には間違い。
正しくは「It’s I.」となります。
いやいや、この説明は実に分かりやすいものでした。
で、先ほどの「Thunderbirds are go!」について、この話を思い出したのです。
名詞+Be動詞の後に持ってこれるのは、同じ名詞(の主格)か形容詞です。
この「Go」は形容詞なのでは…と思い至り、辞書で調べると、形容詞としての意味がありました!!
それは「準備が整っている」などといったもの。
つまり、「Thunderbirds are go!」とは「サンダーバード出動準備完了!」といった意味合いになるのでしょう。
ウィキペディアなどにも同様の説明があります。
これでメデタシメデタシ…のはずでしたが、2015年に制作されたCG版を観ていると新たな「魚の骨」が…
この「Thunderbirds are go!」のセリフがどの場面で使われているか、というと隊員がサンダーバードメカで颯爽と出動した直後となります。
映像としては、例えば1号機は既に大空を颯爽と飛行しています。
「出動準備完了」ではなく、「出動中」の状態です。
ここからは「ほんやくコンニャクの術」の出番。
元々は、安易に行政用語を多用せず、住民目線で分かりやすい説明を心がける、という仕事術です。
「Thunderbirds are go!」のセリフが使われている様々な場面を視聴した結果、どうやらこのセリフは「サンダーバード出動!」といったニュアンスで翻訳するのが正しいような気がしてきました。
機会があったらネイティブの方に伺ってみたいと思います。
ちなみに単機で出動する時は、「Thunderbird 3 is go!」といった言い回しになります。
ところで、オリジナル版における、「はい、パパ」というセリフですが。
「FAB」と英語の音声にはあります。
この英語3文字が何の略なのか、実は明らかになっていない、というのが私の理解です。
多分、製作者のジュリー・アンドリュース氏と周辺のスタッフしか知らない話なのでしょう。
ちなみに、「パパ」にも兄弟の性格に応じて色々な言い回しが使われているのですが、日本語版では一律に「パパ」と訳されています。
さらにところで!
円谷プロダクションが少し遅れて制作した「マイティジャック」という大人向けの作品があります。
明らかにサンダーバードの影響を受けていて、登場するメカはカッコいいし、隊長役の二谷英明もダンディの極み!
しかし、視聴率が振るいませんでした。
圧倒的に脚本が不出来だったのです。
13話ほど制作された時点でテコ入れがあり、60分から30分へと枠が縮小。
タイトルも「戦え!マイティジャック」と変わり、子ども向け番組へと大幅に路線が変更されました。
この時、隊員たちが、「了解」の意味で使用していたのが「SMJ」というセリフ。
昔は何のことだか分かりませんでしたが、サンダーバードをあれこれ観ていて気づきました。
これは「FAB」の真似をしていたのですね!!
子ども向けに路線変更しておきながら、当時の昭和小僧には知る由もない「FAB」のセリフのパクリを頻繁に登場させる。
(昭和小僧達は吹き替え版しか知りません。)
ユーザー不在の独りよがりの脚本と評すべきでしょう。
マイティジャックは大失敗に終わり、円谷プロダクションの屋台骨は大きく傾きました。
お客さまの目線がどこにあるのか。お客さまにとっての地平線はどこにあるのか。
自治体のお仕事においても肝に銘ずべきことだと思います。